検証・舛添都政2年~1期前半を振り返る

第6回 五輪準備/「引き算」で残した功績

2015年12月11日掲載



 「舛添知事は2千億円を圧縮したと言っているが、彼が圧縮したわけではない。圧縮したところに彼が来ただけ」。五輪組織委員会の森喜朗会長は今年5月に行われた講演の中で、舛添知事への不満をぶちまけた。

 当時は舛添知事と下村前文科相の間で、新国立競技場の整備費負担を巡る「バトル」が続いていた頃。記者会見やウェブ上で奔放な意見を述べる舛添知事に、森会長は不快感をあらわにした。

 舛添知事が就任してから2年弱の間の「功績」として真っ先に浮かぶのが「五輪競技施設の見直し」だ。

 招致段階では、都が整備する五輪競技施設の整備費は11施設で1538億円。しかし、開催決定後に建設費の高騰や工事期間中の厳重なセキュリティー対策などを見込んで改めて試算した結果、3倍近い4584億円に膨らんだ。舛添知事は知事就任直後、自身のウェブマガジンで「招致時の経費見積もりに比べ、あまりに増大した施設整備費に驚愕した」と語った。

 舛添知事は2014年の第2回定例都議会の所信表明で競技施設の見直しを表明。バドミントンやバスケットボール、セーリングなどの競技会場を変更することで、これらの競技が予定されていた夢の島ユースプラザアリーナA・Bや若洲オリンピック・マリーナの建設を中止。この結果、2008億円を圧縮した。

 さらに、ビッグサイトに予定していた国際放送センターとメーンプレスセンターの配置を見直すことで五輪の施設整備費から外し、都の整備費は現時点で2241億円となっている。

 具体的な見直し内容を報告した昨年11月の都議会五輪特別委員会で、舛添知事は「再検討によってレガシーを残す計画に生まれ変わらせることが出来た」と強調した。

 森会長の指摘する通り、夢の島ユースプラザの中止などは知事が見直す以前からささやかれており、内部で検討していたことは事実だろう。だが、庁内でも「決断したのは知事。知事の功績と言って良いのではないか」と知事を評価する声が上がる。

 競技施設の見直しが功績と言えるのは、2千億円を圧縮したコスト面だけでなく、レガシーの面でも大きい。夢の島ユースプラザは近隣に有明アリーナなどを整備するため、需要を奪い合う「負の遺産」になることが懸念されていた。行政が一度決定した施設整備計画を中止するのは並大抵なことではない。

 会場計画の変更に対しては、立候補ファイルに掲げた「コンパクトな大会」や「アスリートファースト」というコンセプトに反すると否定的な意見も多かったが、舛添知事はぶれることなく決断した。IOCが「アジェンダ2020」で既存施設の活用を打ち出したのも追い風となった。

 五輪準備に関しては、大会の開催だけでなく、大会を起爆剤と位置付け、経済活性化や水素社会の実現、観光振興、バリアフリーの推進、ボランティア社会の醸成、スポーツ文化の浸透など、様々な政策の種を植えていることも評価してよい部分だろう。

 一方で、新国立競技場を巡る発言による波紋や、エンブレムの白紙撤回後に印刷された名刺等を使用するなど、「つまづき」があるのも五輪関連だ。

 新国立競技場の都負担に関しては当初、500億円の負担に対し、「国立なので国が整備することが基本」と強い姿勢で臨んでいたが、国と協議の結果、今月1日には395億円の負担を受け入れた。舛添知事は、大会成功に責任を持つことや波及効果、防災機能などを勘案して、「都民に利益がある」と受け入れ理由を説明するが、第4回定例都議会では自民から「初めから分かっていただろう、そんなこと!」とのやじが飛んだ。世間をにぎわせた割に、分かりにくい着地点となったことは事実だ。

 また、庁内からは五輪に関し、「お金のことを言い過ぎる」との声も聞かれる。

 エンブレムの撤回時には、ポスターの印刷にかかった経費など都の影響額を細かく示し、影響額を抑えるため、「業者と、新しいエンブレムが決まったらまたお願いしますのでどうでしょうか(とお願いしている)」などと記者会見で言及したが、職員からは「官製談合と受け取られないか。あくまで水面下の話で、平場で言うことではない」と危ぶむ声が聞かれた。

 五輪開催まで4年8カ月と迫ったが、大会成功の大前提となる機運は盛り上がりに欠けている。新国立競技場やエンブレムの白紙撤回で付いたマイナスイメージが一因となっていることは否定できず、舛添知事がそれを牽引(けんいん)した部分がある。

 五輪に関しては、コストを減らすなど「引き算」で功績を上げた舛添知事だが、今後は機運醸成やレガシーの創出など、プラス面で結果を残すことも問われてくる。
→シリーズメニューに戻る
→記事を読んだ感想を書く

© TOSEISHIMPO,Inc.