検証・舛添都政2年~1期前半を振り返る
第1回 万機公論/議会との隙間風、突風に/新国立批判きっかけで
2015年11月24日掲載
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「とにかく無事に終わって良かった」。都幹部職員はそう胸をなで下ろした。
今月10日、永田町の自民党本部7階会議室。国会議員との勉強会に、都側は舛添知事を始め3副知事と政策企画、財務、主税、総務の各局長という首脳メンバーが顔をそろえた。
勉強会のテーマは地方法人課税の偏在是正措置の撤廃。自民党税調の税制改正論議が決着まで1カ月と迫る中、都選出の国会議員に協力をもらい、都の主張を発信してもらうことが目的だ。
舛添知事は冒頭、「東京の発展のため、力を貸してほしい」と頭を下げた。国会議員からは、都の将来的な財政需要や地方との「共存共栄」策などの質問が寄せられ、約1時間の勉強会は穏やかな雰囲気で終わった。最後は鴨下一郎都連政調会長が「今日がキックオフ」と締めくくった。
偏在是正措置は2008年の地方法人特別税の「暫定措置」から始まった。さらに14年度には法人事業税法人税割の一部国税化が導入。14年度の与党税制改正大綱では、消費税率10%段階で法人住民税法人税割の地方交付税の原資化をさらに進めるとともに暫定措置は廃止し、他の偏在是正措置を講じることを打ち出し、東京の財源を奪うさらなる措置の導入が検討されている。
自民党の勉強会に知事を筆頭とした都の最高幹部が勢ぞろいしたのは、今年度の税制改正論議を「正念場」として全力で取り組む都の並々ならぬ力の入れようにも映るが、背景には別の理由があった。
3カ月前の8月、自民党本部の同じ部屋で開かれた勉強会では、全く違う空気が流れていた。
財務局長と主税局長らが偏在是正措置撤廃に向けて都の置かれた状況を説明したが、都選出の国会議員の意識は別のところにあった。
「知事はなぜ来ない。来るのが筋だろう」「これでは本気になれない」─そんな怒声が局長らに向けて飛んだという。
その背景にあるのが、新国立競技場計画を巡る舛添知事の一連の発言だ。
当時、知事はツイッターやウェブマガジンで、新国立競技場の建設費が当初計画よりも大幅に増加したことや、その責任を誰も取らない文部科学省の体質に、批判の声を強めていた。
こうした発言が発端の一つとなり、競技場計画は結果的に白紙撤回の道をたどり、19年に予定されていた新国立でのラグビーワールドカップも幻となった。当時の文部科学大臣だった都選出の下村博文氏も事実上の更迭に追い込まれる。
「東京選出の国会議員、みんな背を向けていますよ。はっきり言って」。10月2日の都議会財政委委員会。偏在是正措置の撤廃に向け、都の姿勢をただした自民党の高木啓氏は、当時の国会議員の心情をこう説明した。
新国立競技場計画を巡る知事の発言は、都議会でも問題視されていた。まず6月16日の第2回定例都議会の代表質問で、自民の林田武氏が知事のツイッターでの発言などに「違和感を覚える」と指摘。国との関係構築を求めたのに対し、舛添知事は「お互いがバラバラに動くのではなく、一致協力していくことが重要」との認識を示した。
だが、林田氏の質問の本質を理解していなかったのか、その後も舛添知事の国や文科省批判は止まらない。
7月13日のツイッターでは「政府は至急、今回の失態に至る経緯を検証し、責任者を処分すべき」と批判。7月28日のウェブマガジンでは「建設の責任者である文科省の無能、無責任は論外」と言及し、さらに8月25日には「政権中枢にいる首相補佐官や、ツイッターで無知をさらけ出している衆院議員を見ていると、この国の将来は大丈夫かと思わざるを得ない」とまで過激に言い放った。
財政委員会で高木氏は「偏在是正措置の問題は政治の課題」とした上で、舛添知事の一連の発言を例示し、「これが政治的な課題を解決する人の姿勢か」と厳しく指摘した。
最初の都連との勉強会から3カ月が経ち、やっと持たれた国会議員と舛添知事との会合の場。8月の勉強会や都議会での追及がうそのように無事に終わり、都幹部の一人は「偏在是正措置の撤廃に向け、ハードルの一つをクリアし、やっとスタートラインに立つことが出来た」と話した。
その一方で「表面的には連携体制は整ったが、完全な関係修復までには根深いものがある。これから知事の行動が問われてくる」とも語った。
そうした庁内の見方を裏付けるように、ある自民の幹部都議はこうつぶやいた。「舛添知事は、信用の置けない部分がある」
=6面につづく
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「学者が政治家に」募る不満 (6面掲載分)
舛添知事と都議会自民党の間の隙間風が最初に表立って現れたのは、2014年の第3回定例都議会だ。
「一人で時速100キロを続けるのではなく、理事者や議会など多くの意見に耳を傾けてほしい」。当時の村上英子幹事長は代表質問で舛添知事にこう「苦言」を呈した。
都市外交や朝鮮学校に対する補助金凍結の見直し、トライアスロン会場となったお台場の「大腸菌」発言などを巡る知事発言が発端だった。
こうした自民党との隙間風が、新国立発言を受けて9月17日の五輪特別委員会では突風となって吹き付けた。新国立競技場計画を巡る一連の発言や 姿勢に対し、高島直樹議長(当時)が「評論家的、他人事と言える発言は、開催都市のリーダーとして当事者意識を欠いたもの」と批判。同じく自民の吉原修氏 も、都が整備する競技施設の責任の所在を明確にするために舛添知事が8月に3副知事に進行管理を分担させたことに、「いまだに一切、連絡がない」と不快感 をあらわにし、「万機公論に決すべし」を政治信条とする知事のコミュニケーション不足を厳しくただした。
大変なのは知事と議会との間に立たされた職員だ。「これから偏在是正の撤廃や予算編成など、議会との連携を強めなければならない時に大丈夫か」など不安の声が上がった。
自民の批判は、知事の行動に対する不信感に端を発している。
新国立に関しては6月18日、文科省との関係悪化を懸念した組織委員会の森喜朗会長から「ハチミツ」をなめさせられ、反省したかに見えた知事 だったが、翌日、計画の白紙撤回が報じられると再び文科省批判に転じた。この時も自民サイドからは「朝令暮改。信頼できない」との声が上がっていた。
五輪招致の苦労を知らず、招致決定後に知事の椅子に座った舛添知事が、ひとごとのように話すことを念頭に置いてか、高島議長は特別委員会の席上で「成し遂げるための苦労を知っている方は、苦労して勝ち得たものを安易に壊すことは出来ない」と語った。
ある自民の中堅都議は「予算を作って通すのが都議会第1党の我々の仕事。泥をかぶることをいとわずに都政のために取り組んできた。執行機関も同じ思いで汗をかかねばいけないのは当然」と話し、舛添知事には、その姿勢が欠けていると指摘する。
知事に対する自民の不信感は新国立に関する発言だけではない。10月16日に舛添知事は総理官邸を訪れ、安倍総理と会談。介護離職ゼロの実現に 向けて話し合う場を設置することを確認した。所管局も聞いていない中での突然の訪問だったという。その後の会見で知事は偏在是正措置の撤廃に向けた動きも 念頭に入れていることも示唆した。
この報道を耳にした自民幹部は「誰が味方になるのか、分かっているのか」とつぶやいた。
偏在是正措置を撤廃する場合でも、逆に強める場合も法改正が必要であり、国会議員の理解と協力は不可欠だ。同幹部は「都選出の国会議員と関係が 悪化している中、間を飛ばされた議員はどう思うか。こういうことをやるから余計にこじれる」と漏らし、こう付け加えた。「舛添知事は世の中の道理、人情の 機微というものが分かっていない。一言でいうと、学者が政治家になったということだろう」
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舛添知事が就任してから来年2月で2年が経ち、1期目前半の折り返し点を迎える。これまでの舛添都政をシリーズで振り返る。
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