「今後、本ビジョンを都政運営の新たな羅針盤として、全ての都民の皆様が夢と希望と幸せを感じられる『世界一の都市・東京』を実現していきたい」──舛添知事がちょうど1年前の昨年12月に発表した都の長期ビジョン。今後10年間の総合的な計画として、460ページにわたり約360の政策目標を掲げるとともに、推進するための具体的な政策展開と3カ年の実施計画を盛り込んだ。
例えば、保育サービス利用児童数を毎年1万2千人ずつ増やし、2017年度末に4万人分増やして待機児童を解消することや、特別養護老人ホームを25年度末までに6万人分増やすことなどを掲げた。単に施設数を増やすだけでなく、保育・介護人材を確保する取り組みも掲載した。
この長期ビジョンは庁内からは、「まるで電話帳」と揶揄(やゆ)する声もあるものの、「全方位型。福祉からハードまで、満遍なく見ている。バランスが取れている」と評価する見方も多い。
このバランス型こそ、舛添都政の最大の特徴と言われている。
都職員の一人は「石原知事はディーゼル車規制や尖閣問題など、自分の興味がある分野を一点突破型でやってきた」と話し、福祉や雇用対策まであらゆる分野に目配りしている舛添知事の長期ビジョンを評価した。
だがバランスの良い長期ビジョンは、厳しい見方をすれば、これという特徴がない内容とも受け取れる。新たに就任した舛添都政の方向性を示すものとなるはずの長期ビジョンで実現可能性が強調されたことに、庁内からは「総花的で知事が何をしたいのか、強調したい部分が分かりにくい」との声も聞かれた。
バランスが取れた行政運営は本来、地方自治体の在り方として王道のはずだが、東京の場合は他の自治体とは事情が異なる。高い財政力を背景に、他の自治体をリードする役割も求められる。
例えば美濃部都政の公害対策や法人住民税の超過税率の導入、石原都政のディーゼル車規制や、後の外形標準課税につながった銀行税の発想などがそれに当たる。
では、舛添都政が示した長期ビジョンで日本をリードする施策に当たるものは何か。確かに国際金融センター構想や水素社会の実現は、これまでの都政にはない目新しさはある。だが、海外の企業を集積させる国際金融センターにしても、インフラの普及が大前提の水素社会の実現も、都が出来ることは周辺環境の整備など限定的だ。都民が拍手喝采するような一点突破型の施策とは異なる。
ある幹部職員は「舛添知事が都政で目指しているのが何か見えにくい。都を足掛かりに、自分がやりたいことを実現しているようにも見える」と指摘する。その典型として挙げるのが都市外交だ。
都民に何をもたらすかよりも、知事の思いが先行していると見る。「一人の国会議員として訪問するよりも、知事として訪問した方がインパクトはある。自分がやりたいことを都の財源や人材を使い倒してやっているという印象」
長期ビジョンは都政の方向性を示してはいるが、それは都が取り組むべき施策の積み重ねであり、舛添知事の哲学や思想を表したものではない。舛添知事の目指すべき方向が分からないと言われるゆえんだ。
こうした声は議会サイドからも聞こえる。ある自民幹部は「まず、最初に東京はどうあるべきかを示すべきで順番が逆だ」と指摘する。
そうした声に応えるものとなるのが、舛添知事が現在策定中の2040年代を視野に入れた「グランドデザイン」だろう。
昨年の第4回定例都議会で、長期的な視点でハード面の整備を進めるための指針となる「都市づくりのグランドデザイン」を策定する考えを表明。また、今年の第2回定例都議会では、ハード・ソフトを合わせた東京の将来的な生活像に着目した全体像を示す「東京のグランドデザイン」をまとめる考えを示した。
舛添知事は地方創生の議論に絡めながら、「戦後70年間、日本が歩んできたベクトルを大きく変える時期に来ている」と策定に向けた意気込みを語った。
都市づくりのグランドデザインは17年度中に、それを内包する「東京のグランドデザイン」は同時期以降に策定する見通しだ。つまり、グランドデザインの策定は、東京五輪の準備と並んで舛添都政1期目後半に取り組む大きな作業の一つになるとともに、舛添都政が2期目以降に目指す方向性を示すものとなる。
「東京を世界一に」という掛け声も定性的で分かりにくいと言われる中、舛添知事はグランドデザインでどのような東京の未来像を描くのか。その全貌は間もなく明らかになる。 =おわり
◆「第2部・都幹部職員座談会」は1月5日発行の新年号に掲載します。
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