「手加減しないように頼んでいたし、私も対等に試合した」
都大会で銅メダルを獲得した高校生チームと、障害者スポーツ「ボッチャ」で対戦した舛添知事。慣れない車椅子に座った知事が、青いボールを投げると、白い的球に向かって真っ直ぐ転がり、すぐ近くで止まった。まさかの勝利に、知事は「これまで何度かボッチャをやったが、初めて勝った」とご満悦だった。
11月11日、知的障害や機能障害を持った生徒が通う都立永福学園を視察した知事は、同学園の就業支援や、障害者スポーツの取り組みを体験した。「五輪のレガシーの一つとして、心身に障害がある人も健常者と同じように生きていける世の中にしていく必要がある」と熱く語る知事を前に、視察を受けた教育庁職員は「以前の知事では考えられなかった。現場を見てもらえてうれしい」と驚きと喜びを隠さなかった。
「福祉の重視」は厚生労働大臣だった舛添知事に期待される施策の一つだ。それに応えるように、就任直後から医療・介護連携の高齢者住宅や、島しょ部の福祉医療センター、北区の障害者スポーツセンターなどを視察している。都庁内からも「積極的に現場を見ている。福祉施策では、厚生労働大臣の経験もあることから知識もあり、話が通じやすい」と評される。
知事自身が本格編成した初の今年度予算では、福祉費が前年比410億円増となった。高齢化の進展による増要素はあるが、主計部では「それ以上に予算措置しており、舛添知事として力を入れた部分」と説明する。
福祉施策で独自色が強く表れているのは、雇用や女性活躍など、これまで光が当たりにくかった分野に取り組みを広げたことだ。
今年8月に「女性の輝くまち・東京シンポジウム」、今月3日に「非正規雇用対策シンポジウム」を開き、「誰もが活躍できる社会」に向けたメッセージを発信した。保育事業では、保育士のキャリアアップ補助を始めとする人材確保などソフト面の拡充と、都有地の貸し付けや都庁内保育所の設置などハード面の支援を広げた。高齢者施策では、地域包括ケアの推進に向けた環境整備で、認知症支援センターの設置などにも新たに取り組む。
社会的な要請や国の施策に同調する部分もあるが、「就任直後から一貫した舛添カラー」(都庁幹部)と言って差し支えないだろう。
こうした舛添都政の福祉施策には、都議会共産党幹部も「石原都政は『福祉は敵』と言ってはばからなかった。舛添知事の下で、住民の福祉の増進という地方自治体の役割を果たす『普通の都政』になった」と一定の評価を寄せる。
知事は、こうした福祉の充実そのものを目的としているのではなく、そこには独自の哲学がある。永福学園を視察した際、知事は障害者支援について、「障害を持っていても、タックスペイヤー(納税者)になれる。社会に出て自分で稼ぐことが、これからの障害者施策でないといけない」と話し、支援の先にある自立や活躍を見据えている。女性の活躍シンポジウムでも、「東京五輪は多様性の象徴。国籍・性別・年齢問わず全ての人が活躍できる都市でなくてはならない」と、弱者救済にとどまらない「福祉先進都市」の将来を語った。
一方で、懸念となるのが、知事の掲げる目標と現実との乖離(かいり)だ。
知事選で「待機児童ゼロ」を掲げた舛添知事は、昨年策定した都長期ビジョンで、17年度末までに保育所定員を4万人に増やして待機児童をゼロにするという「到達すべき目標」を盛り込んだ。各局の都有地を区市町村に貸与する仕組みづくりや、特区を活用した公園内小規模保育所などの取り組みなども進めているが、それでもまだ約8千人のキャパシティーが足りていない。
こうした現状に、「知事が胸を張った福祉貢献インフラファンドも効果は不透明な部分がある。保育従事者の人材不足も続いており、決定打が打てない以上、目標達成は難しいのでは」(都議会幹部)との見方が強い。知事は11月20日、都庁内保育所の事業計画を発表した際、会見で「一生懸命、保育所のキャパを増やせば増やすほど、またどんどん待機児童が生まれてくる」と早くも予防線を張っている。先行きの見えない少子高齢化社会で「大風呂敷」が実現できるのか─残された時間は2年余しかない。
|