検証・舛添都政2年~1期前半を振り返る

第7回 環境施策/「意欲的な目標」の先に

2015年12月15日掲載



 パリで12日まで開催された国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)。各国の温室効果ガス削減目標を決めるCOP21の成功を後押しするために、都は10月、独自の削減目標や行動計画などを公表する国際的な都市ネットワーク「コンパクト・オブ・メイヤーズ」に参加。11月20日に、2030年にCО2排出量を2000年比30%削減するという国を上回る目標を発表した。知事は同日の定例会見で、「米国、EUにも遜色ない数字」と胸を張った。

 「意欲的な目標は歓迎。問題は今後の実効性だ」。都の目標を決定した都環境審議会では、有識者からそんな声が上がった。目標達成のためには、再生可能エネルギーの活用や省エネの推進など、多様な取り組みの積み重ねが求められるが、その中で舛添知事が特に力を入れるのが「水素社会の実現」だ。

 燃料電池自動車の普及や水素インフラの整備は知事の選挙公約でもあり、強い意欲を持っている。その理由の一つは、都知事選が東日本大震災後の切迫した電力事情が続く中で行われたことだ。原子力発電への依存脱却を始め、輸入燃料に頼る「エネルギー小国」日本にとって、エネルギーの多様化は今も続く社会的要請である。都は今年4月から投資を開始した官民連携再生可能エネルギーファンドの創設によって、電力の安定供給にも取り組んでいる。

 知事は折に触れ、「水素社会を五輪のレガシーにしたい」と話し、五輪を一つの契機に、燃料電池を東京に定着させる考えを示す。晴海の選手村では、家庭用燃料電池などをまちづくりに組み込むとともに、都心と臨海部をつなぐBRTに燃料電池車の導入を進める。世界に先駆けて14年12月に一般販売を開始した燃料電池自動車は、20年までに都内6千台の普及を目指し、国が行う購入費補助に上乗せする形で1台100万円を補助してきた。また、水素ステーションは35カ所の整備を目指し、設置費や運営費の補助に加え、国に規制緩和を求めている。

 普及促進のためには、業界の技術革新による低価格化や整備用地の確保なども必要になり、目標達成にはまだ課題が残る。だが、「水素社会の実現に向けた東京推進会議」で、有識者から「国の動きを待っていては話が進まない。都が水素社会実現に向けてリードしてほしい」と注文を付けられるなど、知事のリーダーシップへの期待は高い。

 舛添知事は高度経済成長期の「負の遺産」とも言える大気汚染などの解消に向けて、水素社会と同時に、「ディモータリゼーション(脱自動車社会)」の実現も目指す。就任当初から「車の量を減らし、東京の空気を奇麗にしたい」と話してきた知事は、3環状道路を始めとする道路整備によって、渋滞緩和や都心迂回による交通量削減に取り組むとともに、「都心から自動車を締め出す」ために、代替となる交通手段の充実にも着手している。

 鉄道など公共交通機関の活用に限らず、知事がモデルにするパリやロンドンで普及する自転車シェアリングの促進や、大会開催時の輸送手段や観光にも活用できる水上交通の充実など、多様な交通手段の確立を目指す。これらも知事は「東京五輪のレガシー」に掲げている。

 都内の大気汚染状況は、一昔前と比べると大幅に改善している。これは99年に石原都政下で施行したディーゼル車規制の影響が大きく、都庁幹部は「石原都政のレガシーだ」と話す。「青島知事はリサイクルの導入、石原知事はディーゼル規制と、環境施策は今でも都のレガシーとして残っている。まだ就任から2年なので当然かも知れないが、今のところ舛添都政が形に出来ているものはない」

 五輪の開催決定後に就任した舛添知事は、五輪準備をそつなくこなせば大会成功という大きな実績が約束されている。職員は「それに加えて、形として『舛添レガシー』を残したいのだろう」と、知事の「意欲」を解説する。大都市東京の取り組みは全国へ波及することも多く、水素社会で先鞭(せんべん)をつけることが出来れば大きな成果になる。

 一方で、社会システムの整備という側面が強い水素社会の実現に、都が注力することに対して、庁内からは「自治体が行うのは、違和感がある」「全面的に水素にシフトして大丈夫か」との声も上がる。

 知事は1月の定例会見で、安倍首相が燃料電池車に試乗したことを受けて「私は安倍さんより前にあの車に乗っている」と対抗意識を見せるなど、並々ならぬ熱意はとどまる様子を見せない。とはいえ、都が率先して環境施策に取り組むことは、社会的に意義が大きいことは間違いない。
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