| 八ヶ岳の遅い春/安部和夫 春一番が吹いたのは、4月に入ってからで、雷を伴う激しい風と雨が、カラマツなどの枝をもぎ取っていきました。大小の枝が、雪のむら消えになり始めていた庭に散乱したばかりではなく、枝振りよく広げた木の枝にも乗ってしまいました。コメザクラのそれを背伸びして取り除くと、身軽になった枝がブルンと揺れて空へ向かって跳ね上がり落ち着きます。まるで、「重かったんですよ」と言わんばかりです。落ちたカラマツの枝を1本ずつ拾っては、まだまだ必要なストーブの焚き付け用に適当な長さに整えます。
この雨風を境に、朝の外気温がマイナスの2桁になることはなくなりました。定住して初めての冬は、例年になく厳しい寒さで、週末ごとに接していた以前とは違った顔をこの地は見せてくれました。おかげで、薪による煖房の心地よさは堪能しましたが、何よりも日を追うごとに、少しずつ夕暮れが遅くなっていくのがうれしくて、春が実感として本当に待ち遠しく感じられたここ数カ月でした。
そして今は、雪が消えて落ち葉がまだ湿っている地面に目を近づけると、早くも伸び出した笹の新芽の下にスミレの小さなハート型の若葉が地に張り付くように出てきています。やっと春が来るのです。「都政新報・電子版」(http://www.tosei-d.com/)にご登録頂くと全文をお読み頂けます。
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