| キューバに学ぶ防災事情/吉田太郎高潮にのみ込まれても死傷者が出ない がれきが海辺に散在し、コンクリートの土台だけが痕跡として残っている。数メートルの高潮にのみ込まれ、沿岸漁村は一瞬にして消失した。だが、ただの一人も死傷者は出ていない。高潮襲来の警告が鳴り響けば、90分で全住民を避難させる体制が整えられている。 カリブ海に浮かぶ共産主義国キューバは、貧しい開発途上国だ。おまけに、北上する嵐の銀座通り道に位置するだけに毎年のようにハリケーンが襲来する。それも台風とはスケールが違い、2008年に襲来したグスタフの風速は時速340キロと、「のぞみ」よりも早かった。テレビ塔は倒れ、バスも横転し、民家の屋根は吹き飛ばされ、海水が数キロも内陸部に浸入し、沿岸住宅地を襲う。08年にはこうした大型ハリケーンが3度も立て続けに直撃し、200万人が被災。50万戸の家屋が壊れた。だが、7人しか死者が出ていない。 死傷者を出さないためには危険地域からいち早く脱出し、安全な場所に避難すればいい。言われてみれば当たり前だが、08年には人口が1100万人の国で400万人が避難したという。米国の経済封鎖を受け、燃料も乏しければ、ソ連製のトラックやバスもろくにない。一体、どうやって安全に避難できるのか。そのシステムを知りたく、この5月と9月に被災地を訪ねた。
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