| キーパーソンに聞く~東京の地方公務員像(100)/「年輪経営」でデジタル化推進/東京都副知事 宮坂学氏都や区市町村の管理職の人物像に迫る「キーパーソンに聞く」が100回目を迎えた。今回は特別編として、都政のDX推進の旗振り役となる「最重要パーソン」の一人である宮坂学副知事に、就任以降の仕事で感じたことや職員に対するメッセージを聞いた。
─都庁で働くことになったきっかけは。 公務員というのは、それまでの自分とは一番距離のある仕事でした。話をいただいて、公共領域のデジタル化は誰もやっていないことで、新しいこと、今までと違ったことをしたいという気持ちでした。前人未踏であり難しい面もありますが、試行錯誤しながらやっています。
─これまでで印象深い出来事は。 一つは都庁にデジタルサービス局という組織ができたこと。約20年前に、政府が「e―Japan戦略」を掲げて世界最先端のIT国家を目指すとしながら、行政には専管組織がありませんでした。デジタルサービス局ができて、誰がデジタル化を進めるのか明確化しました。また、技術系の職種として「ICT職」を新設したのも印象的な出来事です。以前は事務職の人が見よう見まねでしていましたが、やはり「餅は餅屋」で意義は大きいと思います。
─都庁内部でデジタル化の手応えを感じることはありますか。 毎年、今の時期に各局長を回っているのですが、1年目と比べると大きく変わったように思います。当初は紙の資料がたくさん置かれていて、誰もパソコンを持ち込んでおらず、「すごいところに来たな……」と思いましたが、2年目になるとモニターが局長室に配備され、3年目は紙なんてほぼなくて、皆、パソコンを机に置いて意見交換をしています。民間から見るとまだまだかもしませんが、「定点観測」していると大きく変わったと感じます。 ─苦労していることは。 行政のデジタル化は、法律や条例などがある上にサービスを作らなければならないので、デジタル化を進めたくても法律などで規定されていて、規制改革などが必要なことも多いです。民間でも会社法や商法などの規定はありますが、行政はより厳密に決められています。
─今後の都のデジタル化で重要なことは。 焦らないことでしょうか。よく自分の仕事を「爆速」と言われるのですが、実は自分ではあまり言っていないんです(笑)。デジタル化は大きい組織だと時間がかかります。「年輪経営」と言う人もいますが、年輪は毎年1ミリしか増えないかもしれないけれど、振り返ると大きな巨木ができている─そんなイメージを持ってほしいです。国もデジタル庁が発足し、一夜にして良くなると思われがちですが、これまで20年間かけてできなかったことなので、「毎年必ず1ミリでいいから去年よりも大きくなる。それを愚直に永遠に続ける」という持続的成長が大事です。
─職員に伝えたいことは。 デジタル化ができる・できないという問いはもうやめて、デジタル化はできるという自信を持ち、「どうしたら使いやすいデジタル化ができるか」を考えてほしいです。デジタル化自体を目標とせず、「都庁のホームページって見やすい」「都庁の受け付けってすごく簡単になっているね」など、質の高いデジタル化を目指してほしいです。
─区市町村のデジタル化にも力を入れています。 区市町村のCIO(情報統括責任者)と会議をしていると、自治体によってデジタル化のギャップが大きく、意外と横の取り組みが知られていないと感じます。ですが、(62区市町村で)62戦全勝しなければ、都のデジタル化は成功したとは言えません。62区市町村で同じ失敗をコピーするのでなく、「他人の成功は自分の成功、自分の失敗は仲間に同じ失敗をさせない」という考え方で、取り組みを横展開し、都全体のデジタル化を進めていきたいと考えます。
─ドバイやパリへの海外出張で気づきはありましたか。 特にドバイは成長にこだわっていて、街全体に勢いがあると感じました。成長することで人やお金が集まり、活気が出ます。経済だけでなく、文化やエンタメ、大学も集まっていました。東京も日本中から才能や意欲ある人材が集まって成長し、「一極集中」なんて言われ方をしたかと思いますが、しょせんは日本地図の縮尺で見た狭い話です。自分たちの次の世代には、地球全体を見て仕事をしてほしい。日本地図だけ見て「人材が取られた」と言うのではなく、「グーグルアース」のような視点で考えてほしいです。
─休日の過ごし方は。 昔からアウトドアがすごく好きです。夏はコンディションが良ければサーフィンをします。今の時期は毎日でもやりたいですね。冬はスノボです。前職の時に、2千メートルの冬山でキャンプしていた時にビデオ会議をしたこともあって「(デジタル化で)こんな時代になったのか」と思ったこともあります。ロードバイクも好きで、奥多摩を80キロくらい走ったりします。先日は伊豆大島も走りました。ロードバイクで走ると達成感があります。YouTubeの青ケ島のチャンネルもお気に入りです。
みやさか・まなぶ=1967年生まれ。山口県出身。ヤフー(株)代表取締役社長を経て、2019年9月に副知事に就任。
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