曇り空の中、1台の白いワゴン車が都庁第一本庁舎2階の車寄せに停止した。2日午前9時30分過ぎ、ゆっくりと車から降りた小池新知事は約千人の職員から拍手で出迎えられ、やや緊張した表情で職員から花束を受け取った。 初登庁の小池知事の服装の色は、選挙期間中に着用していた「緑」ではなく、「白」と「ブルー」だった。小池氏いわく、「緑」は「戦闘服」であり、「ブルーオーシャン」の服は「静かな気持ち」を表現したという。出馬会見で都議会の「冒頭解散」を表明するなど、挑戦的な態度を示していた都議会に対する融和のメッセージとも取れる。 だが、その思いは都議会には届かなかったようだ。初登庁のセレモニーには、知事選で支援した会派「かがやけTokyo」の3人の姿しか見えなかった。 同日午前、議会へのあいさつに訪れた小池氏は、最初に川井重勇議長と面会。川井議長は握手こそしたものの、その手には力が込められていないように見えた。退室した小池氏は「(川井議長が)握手、嫌そうな顔していたね」と小声でつぶやき、思わず本音を漏らす一幕もあった。 緊張した面持ちで向かった都議会自民党の控室では、高橋信博総務会長ら2人とあいさつを交わし、約30秒間で足早に部屋を後にした。「小池知事が着ていた服の色の通り、ブルー(憂鬱(ゆううつ))だったのではないか」と苦笑する幹部もいた。 こうした一連の対応が報道されると、都民から「あれは何なのか」と苦情の電話を受けた自民党都議もいた。この都議は「次点と約110万票差で当選した小池氏を擁護する都民が多く、自民党のイメージがますます悪くなっている。第3回定例都議会の知事の所信表明を聞いてから、スタンスを決めると思うが、新知事とどうやって手打ちをするのだろうか」と気をもんでいた。
■キーマン 小池知事は、政務担当特別秘書に元自民党都議の野田数氏を起用した。野田氏は小池氏の秘書を務め、今回の知事選で選対本部に入った。 これまで、野田氏はウェブ上で都議会批判を展開。例えば、「(都議の)年収は約1700万円とかなりの高額。報酬に見合った仕事をしているのか。答えは『否』だ」など過激な書き込みがいくつも見受けられた。 小池氏も知事選の出馬会見で、都議会の冒頭解散を掲げた理由を「都議会自民党と都民の間の分裂ではないか。都民目線の信頼を回復する」と都議会批判を強めていた。だが、同13日の日本記者クラブでの会見では「解散は議会側の不信任が前提」とトーンダウンし、当確後は「都民のためになる政策の実現のために連携を取らせていただきたい」と協調路線に傾き始めた。 ところが、都職員は「都議会全体を舌鋒(ぜっぽう)鋭く批判した野田氏を特別秘書に起用したことは、知事選での争いを今後も引きずるということなのではないか」と懸念する。 新知事と都議会の間を取り持つキーマンは誰なのか。小池氏が2日、各会派にあいさつを終え、職員から報道陣は後を追わないよう制止された後、石原元知事の側近の元副知事が小池氏の前に姿を現し、2人が握手したという。 元副知事は報道陣がいた議事堂5階にも登場し、複数の記者が追い掛けたが、「何も答えないよ。口が堅いから」と口をつぐみ、エレベーターに乗り込んだ。都幹部の一人は「元副知事が都議会との間を仲介するようになるのではないか」と顔を曇らせた。
7月31日に投開票された都知事選で、小池氏は291万票を獲得して初当選を果たし、都職員や都議は得票数に衝撃を受けている。これまでの小池知事の自民党批判がしこりとして残り、関係修復を懸念する声が都庁内で出ている。小池知事の言動を踏まえて議会対応や政策課題を追う。(16/08/09)
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