4月某日、大幹部Sさんの退職送別会が開かれた。といっても、参加者はOBだけだ。元局長も元部長も集まった北新宿の小料理屋。退職者送別会どころか退職者会歓迎会である。一杯入るとかなりきわどい話も出てくる。 「A局長、どうしてあの時Oさんが総務部長になったんですか。本来ならMさんかNさんでしょう」 Fさんが突っ込む。当事者は全員いるのだが、さすがに今まで誰も聞いたことがない話だ。 「ああ、MやNは忠実だし優秀だろう。あの時、官房系からも希望があった。だがこのOはな、どこの局もいらないってサインが出ていた」 「馬鹿、俺を飛ばせば済む話じゃないか。あんたが俺に総務部長をやらせるって言うから、しめたっ、あんたは辞める気だなって喜んだのに、その後1年もいやがった」 Oさんは相変わらず口が達者だ。というか、この人はずっと反主流を公言していた人だったから、これぐらいは言う。 さあ、次は誰が何を言うのか。 「Oさん、あんたは取り込まれたんだろう。ねえ局長、そういうことでしょう。まず敵を懐に入れておとなしくさせる」口火を切ったのはMさんだ。 「おう、Mよ、言ってくれるじゃないか。あのなあ」 「まあ、聞けよ」 言いかけたOのセリフをA元局長が止めた。 「おれはOとは合わない、今だってな。だけど、組織って言うのは一辺倒じゃ簡単に潰れちゃう。そりゃそうさ。誰もが親分の喜びそうなことしか考えられないんだから。親分の羽振りがいいうちはいいが、親分が飛んだら将棋倒しの総崩れだ。だから言うことを聞くヤツばかりで揃えちゃ、絶対駄目だ。反主流派も手駒に残しておく余裕がないといかん。なあに、普段のときは暴れられても多数決で決まりゃあいいんだから、不愉快だが心配はいらん。とにかく、顔も見たくない嫌なやつも飼っておくこと。それが変化に強い、生き残れる組織だ。だからお前さんをずっと残しておいたんだ。そうしたら案の定、あの話よ。あんたで良かった」 さあ、Oさんどう出る。 「言うじゃねえか、しかし、総務部長だけが反主流っちゅうのは、ないぞ、おい局長っ」 「ダメダメ、今日は珍しく、完全にお前の負け」 Nさんが言うと、皆笑い出した。この人たちは結局、全員局長級で卒業している。 「昔は局長にもなれば、それぐらいの手駒を泳がす余裕があったんだがね。最近はだめなんだろう。なあ。でも、そんな純粋培養の上意下達だけで大丈夫かなあ」 A元局長が、退職者会に入会したSさんに語りかけた。 (超反主流派) |