都政新報
 
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■東京都予算案特集/2022年度東京都予算案の概要


  東京都の2022年度予算案が1月28日に発表され、2月16日に開会する第1回定例都議会に提出される。22年度予算案は、「都政に課された使命を確実に果たし、次なるステージへと力強く歩みを進めることで、希望ある未来を切り拓いていく予算」と位置付け、編成された。一般会計の予算規模は、7兆8010億円となり、持続可能な都市へと進化する「サステイナブル・リカバリー」を実現する取り組みや、東京2020大会のレガシーを発展させる取り組みに重点的に予算配分した。基金残高は1兆円を確保するとともに、税収増を活用し、都債の発行を抑制することで、都債残高は減少する見込みとなるなど、中長期を見据えた一定の財政対応力を堅持しており、バランスの取れた予算となっている。さらには、施策全体の方向性を評価する政策評価と、一つひとつの事業を検証し、効率性・実効性を向上させる事業評価を22年度予算編成から一体的に実施することで、施策の新陳代謝を一層促進し、より効果的な事業の構築へとつなげている。予算案の概要を財務局が発表した資料をもとに特集する。

■予算編成の基本的考え方
○予算編成方針
 「都政に課された使命を確実に果たし、次なるステージへと力強く歩みを進めることで、希望ある未来を切り拓いていく予算」と位置付け、次の点を基本に編成した。
1 「感染症の脅威」など大きな危機を克服するとともに、誰一人取り残すことのない持続可能な都市へと進化する「サステイナブル・リカバリー」を実現するため、大胆な発想で果敢に取り組みを進めていくこと

2 社会変革に適応した制度や仕組みへの抜本的な見直しを進めるとともに、事業の見直しを一層強化し施策の新陳代謝を促すことにより、将来にわたる財政の対応力を堅持すること

3 東京2020大会に向けて磨き上げてきた数々の取り組みを都市のレガシーへと発展させ、都民の豊かな生活につなげていくこと

■財政規模
 財政規模(表1)のうち、一般会計の予算規模は、前年度比5・1%増の7兆8010億円、うち政策的経費である一般歳出は、前年度比4・1%増の5兆8407億円、特別会計及び公営企業会計を含めた全会計の合計は、前年度比1・6%増の15兆3939億円となった。
 歳出面では、危機管理体制の強化により安全・安心な東京を実現する取り組みや、「サステイナブル・リカバリー」で世界をリードする東京へ進化させる取り組み、あらゆる面で「段差」のない共生社会を形成する取り組みなどに重点的に財源を振り向けた。
○歳入の状況(表2)
▽都税収入
 都税収入は前年度比11・6%増の5兆6308億円となった。
○歳出の状況(表3)
▽経常経費
 経常経費は前年度比4・1%増の4兆8631億円であり、うち給与関係費は前年度比0・7%減の1兆6188億円となった。退職手当の減などにより、前年度比で110億円の減となった。
▽投資的経費
 投資的経費は前年度比4・0%増の9776億円となった。風水害等の災害に強いまちづくりや、骨格幹線道路の整備等の交通・物流ネットワークを強化する取り組みを推進するなど、高い効果が得られる事業に財源を重点的に配分した。
▽目的別内訳(表4)
 構成比が最も高い分野は福祉と保健(29・3%)、次いで教育と文化(20・2%)である。
 限りある財源を重点的・効率的に配分し、都民生活の質の向上に努めている。

■財政運営
○予算のポイント
 予算のポイントは、大きく次の3点。
1 危機管理体制を強化し、安全・安心な東京を実現
▽感染症に強い都市
 感染拡大下でも都民の命と健康を確実に守ることができる医療提供体制の確保に加え、ワクチン接種の推進や検査体制の充実など、新型コロナウイルス感染症の予防・早期発見の徹底を図る。
 さらに、今後も世界レベルで大きな脅威となり得る新興感染症への備えも万全にしていく。
▽自然災害の脅威から都民を守る都市の強靭化
 気候変動により激甚化・頻発化している風水害への対策や、建物の耐震化や無電柱化等の首都直下地震への備えなど、都市の強靭化に向けた取り組みを計画的に推進していく。
 さらに、大都市特有の課題である帰宅困難者対策など、災害対応力の強化を図っていく。

2 「サステイナブル・リカバリー」で世界をリードする東京へ進化
▽ゼロエミッション東京の実現
 2030年の「カーボンハーフ」達成に向け、ZEVの普及拡大、太陽光発電等の再エネ活用など、社会全体で脱炭素化を推進していく。
▽世界から選ばれる経済・金融都市
 コロナ禍により大きな影響を受けた事業者への支援を行うとともに、中小企業の稼ぐ力の向上、国際金融都市の地位の確立に向けた取り組みなどを推進していく。
▽社会の隅々までデジタル化を浸透
 都がなすべき施策を迅速かつ着実に実施するため、デジタルの力を一層活用し、生産性の向上や行政サービスの効率化・質の向上を図る。

3 あらゆる面で「段差」のない共生社会を形成
▽社会のバリアーを取り除き、誰もが輝ける社会
 「多様性と調和」を掲げた東京2020大会を契機として、子供から高齢者まで、性別や障害の有無にかかわらず、誰もが活躍でき、やさしさを感じられるまちづくりを進めていく。
 とりわけ、コロナ禍が長期化し、人とのつながりの減少、非正規雇用を中心とした離職の増加など、深刻な影響が及んでおり、困難を抱える方の状況に応じた支援体制の構築を図っていく。
▽子供の笑顔があふれる社会
 こども基本条例やコロナ禍の影響等を踏まえ、改めて子供の目線を大切にし、いかなる状況においても、全ての子供が健やかに成長できるよう、社会全体で子供に寄り添う取り組みを推進していく。
 施策の体系は次の通りである。
◇世界一安全・安心な都市
◇自然と調和した持続可能な都市
◇世界から選ばれる金融・経済・文化都市
◇「人」が輝く、誰もがいきいきと活躍できる共生社会の実現
◇子供の笑顔があふれる都市
◇「スマート東京」「シン・トセイ」の推進
◇多摩・島しょの振興
○持続可能な財政運営
 将来を見据えると、風水害・震災対策など都市インフラの強靭化に係る経費として今後10年で少なくとも約2兆円が見込まれることに加え、老朽化が進む社会資本ストックの維持・更新、社会保障関係経費の増加など、避けることのできない財政需要が存在する。
 こうした中、都政に課された使命を確実に果たし、次なるステージへと力強く歩みを進めるため、中長期を見据えた財政運営の下、大胆かつスピーディーに施策をバージョンアップしていくことが必要である。
 こうした課題認識の下、22年度予算編成では、基金を積極的に活用しつつも一定程度の残高を確保するとともに、都債については、発行額を抑制するなど、健全な財政基盤の堅持に向けた取り組みを行った。
○基金の活用(表5)
 防災まちづくり、社会資本等の整備、福祉先進都市の実現などに向け、3つのシティ実現に向けた基金5270億円を取り崩して積極的に活用する一方、財政調整基金については、21年度最終補正予算で1944億円、22年度当初予算で404億円の積み立てを行い、22年度末時点の残高見込みは3927億円となり、22年度末における基金残高の合計額は、1兆697億円の見込みとなっている。
 希望ある未来を切り拓くための施策を積極的に推進するため、将来の財政需要の動向などをしっかりと見極めながら、引き続き、中長期的な視点に立ち、戦略的な基金の活用を図っていく。
○都債の活用
 税収増を活用し、都債の発行額を抑制することで、前年度に比べて2930億円減の2946億円となった。一方、ESG債については、昨年度と同水準の1千億円程度を発行し、ESG投資の更なる促進と金融分野からのSDGs実現を後押しする。
 起債依存度は3・8%と、前年度比4・1%低下しており、国や地方全体と比べて引き続き低い水準を維持している。

■政策評価・事業評価の取り組み
 限られた財源の中で都政の諸課題に的確に対応していくため、都は予算編成の一環として、目標の達成度や外部有識者の意見を踏まえ、新たな事業の構築など施策全体の方向性を評価する「政策評価」と、一つひとつの事業を検証し効率性・実効性を向上させる「事業評価」を、22年度予算編成から一体的に実施するなど、施策の新陳代謝を促進している。
 政策評価では、局横断的な取り組みを含む9事業ユニットを指定した上で、より成果重視の視点から目標に対する各事業の効果や今後注力すべき新たな課題などを分析・評価し、施策単位での見直しを行うことにより、効果的な事業の構築につなげた。
 事業評価では、DXによる業務効率化やQOSの向上の視点も踏まえ、終期が到来する事業の事後検証を徹底することなどにより、1368件の評価結果を公表するとともに、1116件の見直し・再構築を行った。
 こうした取り組みを通じて、1117億円の財源確保、568件の新規事業の構築へとつなげた。
○事業ユニット一覧
▽パラスポーツの推進
▽MICE誘致の推進
▽子供の安全・安心な放課後の居場所の確保
▽デジタルを活用した教育の推進
▽空き家施策
▽救急搬送・受入体制の充実に向けた取組
▽水素社会実現に向けた取組
▽世界で活躍するアーティストの育成
▽無電柱化の推進
○事業評価の種類
▽事後検証による評価
▽自律的経費評価
▽デジタル関係評価
▽政策連携団体への支出評価
▽執行体制の見直しを伴う事業評価
▽複数年度契約の活用を図る事業評価
▽エビデンス・ベース(客観的指標)による評価
○政策評価の実施例
▽パラスポーツの推進
〔施策目標(主な成果指標)〕
・障害のある都民(18歳以上)のスポーツ実施率
 2020年度31・9%↓2030年度50%を目指す
・パラスポーツに関心のある都民の割合
 2020年度43・6%↓2030年度80%を目指す。
〔課題〕
 障害者のスポーツに関する意識調査において、スポーツ・運動を実施しない人のうち「活動したいと思わない」と回答した人(無関心層)が7割に達している。また、運動する障害者の多くは、自宅や公園などで実施しており、身近な場所での運動を支援する取り組みが求められている。
〔外部有識者からの主な意見〕
・コロナ禍の影響を踏まえ、在宅で体を動かせたり、人とのつながりをもつことができるコンテンツが必要になると考える。
・東京2020大会後のパラスポーツへの関心の維持に課題が残ったと考えられる。
〔今後の方向性〕
 無関心層へのアプローチに加え、スポーツ実施率向上に向けて身近な場所で運動を続けられる環境づくりや安定的に活動できる拠点の整備を推進する。
 また、パラスポーツへの関心を一過性とせず、継続・発展させることで、スポーツ実施率にもつなげていく。
■政策評価・事業評価の取り組み(4面からつづく)
○事業評価の実施例
▽DXによるQOS向上の取り組み
・My City Report(道路通報システム・損傷検出システム)
〔現在の取り組み状況〕
 道路損傷状況等について、これまで職員の情報共有システムは存在したものの、都民からの通報は電話やメール等で受け付けていた。
 新たに都民と協働した道路管理を実現するため、大学研究者による事業提案制度に基づき、スマホを活用したアプリ(MCR : My City Report)について、開発・試行を実施した
〔更なる課題への対応〕
 21年度までの開発・試行実施を経て、有効性が認められたため、22年度からMCRを本格導入する。
 AI等を活用し、高度な道路維持管理を促進するとともに、都民参加によって行政サービスの向上を図っていく。

■主要な施策
 七つの柱で整理された施策の概要は以下の通り(具体的な施策例、予算案は、表6参照)。
1. 世界一安全・安心な都市
 感染症に強く、暮らしの安全・安心が守られた東京、気候変動の影響により激甚化・頻発化する台風・豪雨や、切迫する巨大地震から都民の命と暮らしが守られる東京の実現に向けた施策を展開。
(1)感染症に強い都市
 新型コロナウイルス感染症から都民の命と健康を守るため、医療提供体制等を強化・充実し、感染の収束に向けた取り組みを進める。また、新興感染症への備えなど、中長期的な視点に立った対策の強化を図る。
(2)災害の脅威から都民を守る都市づくり
 台風・豪雨への備え、震災に強いまちづくりに加え、無電柱化の推進や災害対応力・災害医療対策の強化を図る。
(3)暮らしの安全・安心の確保
 救急活動・救急医療体制の充実やまちの安全・安心の確保を図る。

2. 自然と調和した持続可能な都市
 2050年CО2実質ゼロに貢献する「ゼロエミッション東京」の実現に向け、2030年までの脱炭素化の取り組みをより一層加速し、社会の抜本的な変革を促していくとともに、人々に憩いと活力を与え、水と緑にあふれる東京の実現に向けた施策を展開。
(1)ゼロエミッション東京の実現
 水素エネルギーの普及拡大やゼロエミッション・ビークル(ZEV)の普及促進に加え、省エネルギー対策の推進、再生可能エネルギーの導入拡大、プラスチック対策等を行う。
(2)水と緑あふれる都市環境の形成
 東京の水と緑を一層豊かにし、人々がゆとりと潤いを感じることができるよう、生産緑地の買取支援や、歴史的財産である外濠の水辺再生に向けた取り組み等を展開。

3. 世界から選ばれる金融・経済・文化都市
 世界中からヒト・モノ・カネ・情報が集まる、世界一オープンで強い経済・金融都市の実現に向けた施策を強化するとともに、東京2020大会の経験を生かし、スポーツ・芸術文化による新たな感動や楽しみ、にぎわいを創出する都市の実現に向けた取り組みを展開。
(1)世界経済を牽引する都市の実現
 国際金融都市の実現・外国企業誘致の推進や国際競争力を備えた魅力的な拠点の形成、広報体制の強化を図る。
(2)中小企業・地域産業等の支援
 中小企業支援による経済活動の活性化や商店街の活性化支援、農林水産業の振興を図る。
(3)便利で快適な東京の実現
 交通ネットワークの形成や港湾・物流機能の強化を図る。
(4)世界を惹きつける魅力にあふれた都市の実現
 MICE誘致と観光産業の活性化等を行うとともに、新たな魅力の創出を推進。
(5)スポーツや文化を楽しめる環境整備
 スポーツフィールド・東京の実現や文化戦略の推進を図る。

4. 「人」が輝く、誰もがいきいきと活躍できる共生社会の実現
 高齢者が元気に暮らし、活躍できる東京、誰もが自らの希望に応じた生き方を選択し、輝ける東京、障害者の暮らしの安全を守り、支える東京、誰もが質の高い医療を受けられる東京、就労を希望する全ての人が社会の担い手として活躍し、柔軟に働ける東京、様々な人が共に暮らし、多様性に富んだ東京の実現に向けた施策を展開。
(1)世界に誇る長寿社会の実現
 高齢者の社会参加の促進・暮らしへの支援や介護サービスの充実を図る。
(2)女性の活躍促進
 自らの希望に応じて生き方、働き方を選択でき、自分らしく輝くことができるよう、女性のライフステージに応じて、就労、妊娠・出産・子育てなど様々な分野にわたって、きめ細かいサポートを重層的に展開。
(3)障害者がいきいきと暮らせる社会の実現
 障害者の暮らし・就労への支援や特別支援教育の推進を図る。
(4)医療体制の充実・がん対策等の実施
 生涯にわたって健やかで心豊かに暮らせるよう、誰もが必要に応じて質の高い医療を受けられる環境整備をより強力に推進。
(5)誰もがいきいきと働ける社会の実現
 多様なニーズに応じた雇用対策・就業支援や社会構造の変化に対応した働き方改革を推進。
(6)誰もが優しさを感じられるまちづくり
 バリアフリー化の推進や様々な悩みに対するサポート体制の強化、誰もが自分らしく暮らせる環境や人とのつながりの創出を推進。

5. 子供の笑顔があふれる都市
 子供の笑顔と子供を産み育てたい人であふれる東京、一人ひとりに寄り添い、切れ目なく子供や家庭を支える東京、全ての子供・若者が将来への希望をもって、自ら伸び、育つ東京の実現に向けた施策を展開。
(1)子供にやさしい社会の実現
 結婚・妊娠・出産から子育てまでの切れ目ない支援や子供の居場所づくり、児童相談体制等の強化を図る。
(2)新しい時代を切り拓く人材の育成
 子供を伸ばす教育の推進や意欲的に取り組む子供の進学支援等を行う。

6. 「スマート東京」「シン・トセイ」の推進
 5GやAI活用といったスマートサービスの充実などにより、都内の様々な地域で豊かで便利な暮らしを実現するとともに、デジタルをてこに、制度や仕組みの根本までさかのぼった構造改革を推進し、都政のQOSの飛躍的な向上につなげる施策を展開。
(1)「スマート東京」の実現
 世界の都市間競争を勝ち抜き、ビックデータやAIなどの先端技術を活用して社会課題の解決や経済発展との両立を図るなど、デジタルの力で東京のポテンシャルを引き出す取り組みを推進。
(2)都政の構造改革「シン・トセイ」の推進
 先端技術を最大限に活用するとともに、民間企業等のスピード感や企画力、提案力を生かして、都民目線の最適な行政サービスを創出し続ける都政運営に向けた取り組みを推進。

Ⅶ 多摩・島しょの振興
 多摩・島しょ地域の活力・魅力の更なる向上、持続的な発展に向けて、地域が持つ資源や特色を生かし、実効性ある取り組みを推進。
(1)成熟社会に対応した持続可能なまちづくり
 誰もが輝き、暮らしやすいまちづくり、地域を守り、支える都市インフラ整備、地域産業の振興等を推進。
(2)島しょにおける個性と魅力あふれる地域づくり
 島を支える基盤整備、島の魅力を磨き、豊かな自然と調和したまちづくり、島しょ地域での先進的な取り組みを推進。

 

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