2022年が明けた。1年延期して昨年開催された東京2020大会でも理念に掲げられた「SDGs」が近年、急速に浸透している。国連が2030年までに達成をめざす持続可能な開発目標の達成を掲げる企業や団体、自治体は増える一方、東京五輪では大会関係者の女性蔑視発言や弁当の大量廃棄などの問題も起きた。SDGsを絵空事としないためには何が必要か、社会課題の解決に取り組む(株)arcaの辻愛沙子さんにメッセージを寄せてもらった。 平成という一時代が終わり、令和という新しい風が吹き始めてから早いものでもう4年目を迎えようとしています。平成という時代は、日本に一体何を築き、そして何を壊していったのでしょうか。「もう令和なんだからさ」という言葉で、街中の飲み屋から国会まで、これまでよしなに見過ごされてきた様々な不誠実や見直されるべき悪習が少しずつ変化の兆しを見せている今。そんな変わりゆく時代の中で、これから私たちが向き合うであろう価値観や課題感について、これまでを振り返りつつ改めて再考していきたいと思います。 ■変革の分岐点 ビジネスの場では、令和に入って、より顕著にSDGsやESG、サステイナブル、エシカル、パーパスなど、社会性や公共性の高い言葉たちが取り沙汰されるようになってきました。これまで企業が社会的責任として掲げてきたCSRのような〝+α〟の考え方から、社会に向き合い人権や環境問題に取り組みながら経済合理性とのバランスを保っていく企業経営のあり方が〝大前提〟になりつつある時代なのではと捉えています。 2021年、年の瀬に日経新聞の朝刊で1面を飾ったこんな記事を目にしました。 「御社の存在意義 何ですか」「若者、強欲・不平等にNO」「社会のため 転換のとき」。こんな言葉が日経新聞の1面を大きく飾る時代。いよいよ社会性や倫理が+αという時代から大きくシフトしはじめているのだと改めて強く感じた記事でした。例えるならば、かつて平成の時代にインターネットが勃興し新しいビジネスの一時代を築いた頃。当初はネットなんてあくまで+αのものだと捉えられていたわけで、それがあれよあれよという間に社会基盤となり大前提となった、あの空気感に似たものを今また新しい形で感じ始めているように思います。 しかし一方で、それでもなおSDGsや多様性をうたう上場企業の役員を見てみると、そこには近しい年齢の男性ばかりが並び(上場企業の女性役員比率は現在たったの7・4%)、現内閣に女性は3人のみ。G7の中でも女性比率は最下位というのが今この国の現状でもあります。環境問題や貧困問題などこの社会が抱える様々な課題を包括的かつ相互作用的に目標としてまとめているのがSDGsですが、その中で当事者が人類の約半分であるジェンダーギャップの問題ですら、2030年のゴールからはいまだはるか遠くに位置しているように思えるのです。 しかし不思議なもので、多様性が失われた時代や文化や業態はいつの世も総じて人々の〝生きづらさ〟を生み、文化的発展が徐々に停滞し、やがて衰退していくということを、人類の歴史が証明しています。暗黒時代と呼ばれた14~16世紀ごろのヨーロッパしかり、近年増え続けるコモディティー(商品)化した大型商業施設しかり、独善的な経営体制の企業しかり。そんな衰退しゆく画一的な道を歩むのか、ポーズだけではなく本気で社会のあちこちに蔓延する〝それはそういうものだから〟という諦めや停滞に向き合い、変えていく道を選ぶのか。私たちは今、その分岐点に立っているのです。 ■量的変化と質的変化 さて、ここからは少し具体的な課題解決について書いていきたいと思います。 課題解決のためには、量的変化と質的変化の両方を車輪のように回していくことが重要だと考えています。寄りと引き、そのどちらの視点も必要ということです。 例えとして、先ほどジェンダーギャップについて取り上げたので再度その視点から掘り下げていこうと思います。ニュージーランドやフィンランドのように女性首相が生まれたり、パリテ法のように制度として役員や国会議員の男女比が変わったり、女性起業家を対象としたファンドが立ち上がったりなど、仕組みやルールを変えることで、抜本的な改革を実行していく。これを「量的変化」と呼んでいます。 日本にはまずそれが足りなさすぎると思っています。変化を悪とする保守的な思考では、大きな改革は起こりえません。〝いつか〟自然に変わるのを待つ、という姿勢を続けた結果、前述の通り1995年から一向に女性のリーダー層の数値に変化が見られない今の日本があると思うのです。荒療治ではありますが、行政や企業が自ら先陣を切って大きな改革を行わなければ、今の日本のジェンダーギャップは変わっていかないのではと切実に思っています。いわゆる、「ポジティブアクション」と呼ばれる意識的改革です。 =2面に続く ◇ つじ・あさこ=株式会社arca CEO / Creative Director 社会派クリエイティブを掲げ、「思想と社会性のある事業作り」と「世界観にこだわる作品作り」の二つを軸として広告から商品プロデュースまで領域を問わず手がける越境クリエイター。リアルイベント、商品企画、ブランドプロデュースまで、幅広いジャンルでクリエイティブディレクションを手がける。2019年春、女性のエンパワーメントやヘルスケアをテーマとした「Ladyknows」プロジェクトを発足。19年秋より日本テレビ系の報道番組news zeroにて水曜パートナーとしてレギュラー出演し、作り手と発信者の両軸で社会課題へのアプローチに挑戦している。 |