都政新報
 
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新春随想/障害者支える「三角形」でアクセシブルな街に/(株)accessibeauty代表取締役 臼井理絵


  皆さんはご存知でしょうか?
 障害を抱える人たちにとって、「美容サロンに行くことが困難なこと」「美容職を目指すこと自体がタブーとされること」。これらはもちろん、社会的に禁止されていることでなく、当事者たちの人生にはばかるグレーゾーン。設備的問題や健常者との間に生まれる壁、そんな社会の中で〝少数派〟として生き抜くことの難しさ。また、障害者であるという自信のなさが彼女たちをより一層、美容から遠ざけているのです。
 〝美容の力で人生は変えられる〟─何よりも私自身が変化してきた経験を生かし、これまで8千人近くの方々の自分磨きをサポートしてきました。私が美容に心奪われてきたように、この感動や変化をバリアフリーで味わってほしい。その挑戦の”きっかけ”を作りたい。そんな思いで活動を続けています。
 美容業界で12年間生きてきた私の運命が変わったのは2018年。1人の車いす女性と出会ったことがきっかけでした。彼女を通して障害当事者の美容環境を知り、ボランティアで障害者ネイリスト養成スクールを立ち上げました。ネイリストは美容師と違って国家資格がなく、技術さえ身に付ければプロとして活躍できると考えてのことでした。バリアフリー化した場所と、技術を教える講師さえいれば、障害を抱えていてもプロネイリストになれる!! ネイリスト仲間に協力してもらいながら、毎月2回の無料レッスンを継続していきました。「障がい×美容」という新しい取り組みの道を歩み続けた生徒はほんの数人でしたが、「美容を楽しみたい!」「プロネイリストになりたい!」「2年後に控えた東京五輪・パラリンピックで世界のパラリンピアンに日本のネイル技術を伝えたい!」など、皆で志高く活動をしてきました。ですが、彼女たちがプロ技術を身に付けたその先に就職先はありませんでした。
 障害者ネイリスト養成と同時に、受け入れ企業の開拓にも力を注いできましたが、たった数人の(当時検定取得まで継続したのは1人)障害者ネイリストのために、施設をバリアフリー化したり、環境を整備するというのは難しいことがわかりました。同時に、日本の施設環境がどれほど「NOTバリアフリー」なのかを思い知りました。
 ボランティア活動を開始してから約2年経っていたちょうどその頃、私はうつ症状を患っていました。活動が発展するほど自身の経営する自宅サロンは逼迫(ひっぱく)し、収入のほとんどが活動経費となり、寝る時間を割かなければ業務が終わらず、休み返上でレッスンやイベント開催、都庁や組織委員会との面談、企業回り、メディア取材、生徒のケア……何よりも、前例のないこの活動の未来への不安、関わる人たちへの責任感、サポートしてくれる方々に対価を払えない気まずさなど、心身ともに限界を超えていたんだと思います。
 何よりの課題は当事者たちの就労問題。日本社会はこんなに発展しているのに、障害者の就労の選択肢は10年前とほとんど変わらない。これは美容業界に限りません。その理由を私は「社会全体が障害当事者のリアルを知る機会がないから」と考えました。現在の就労支援事業は、当事者と取り組む事業者の「枠」の中に収まってしまうため、たとえ当事者が前進できたとしても、その枠の外(社会)に出た時に、自立がかなわない環境でゴールがないのです。
 当事者・当事者と取り組む会社・もう1点の誰か(個人でも企業でも)が三角形の形で前進していくことこそ、社会環境のアップデートがかなうと考え、より多くの方を巻き込める方法として会社設立に至りました。
 会社設立から1年4カ月。生徒1人が日本航空の子会社へ入社。クラウドファンディングをきっかけにより多くの当事者やサポーターと出会い、メディアでの取り上げ、ナショナルクライアントからのオファーや協賛など、三角形が大きく広がっていることを実感しています。人々や企業も同じように、障害者への支援・雇用の方法を探していました。ですが、障害者=弱者の概念が根付いている日本では、法律・制度・施設環境など、自立や就労環境などへの壁が高すぎるのが現状です。美容業界に位置する弊社だからこそ、福祉・障害の概念を変えていけると自負していますが、そこには行政の皆様のお力添えが必要です。三角形の1点に行政が加われば、東京から日本全体へ、アクセシブルな世界が広がると確信しています。
 コロナをきっかけに、働く場所や住む場所が自由になり、当事者たちは地方や海外を拠点にする人も増えてきています。障害の有無にかかわらずより多くの人が自分らしく生きられる未来社会が実現すれば、当事者は自立や就労をかなえ、一社会人として税金を納めることにもつながります。
 東京五輪・パラリンピック後の時代だからこそ、障害者にとっても障害者と共存する健常者にとっても持続可能な社会環境を作ることで、世界に通用するアクセシブルな街になるでしょう。
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 うすい・りえ=1986年、東京都生まれ。2020年8月に【障がい×美容が当たり前の社会をつくる。】を理念に、株式会社accessibeauty(アクセシビューティー)を設立し、代表取締役に就任。障害者向けのネイリスト養成スクールの運営やWEBマガジンの発行のほか、昨年9月に障害者モデル・タレントマネジメントも開始した。会社名の由来は、障害者と健常者が互いに境界を感じないほどの体(ハード面)と心(ソフト面)のバリアフリーを促進し、その概念が定着している未来社会をかなえていきたいという思いから、「アクセシブル」と「ビューティー」を掛け合わせた造語。
 

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