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最前線~on the Front Line/ウワサのAI~ChatGPTの可能性と課題(上)/全国で導入に向けた動き加速/■神戸市/■埼玉県戸田市


▲チャットGPTの活用を試行する神戸市職員
  2022年11月、OpenAI社がリリースし、わずか2カ月でユーザー数1億人を突破した対話型AI「ChatGPT(チャットGPT)」。まるで人と話しているかのような自然かつ高度なやり取りができるAIとして注目を集め、日本では国が活用の検討に着手しているが、全国の自治体でも導入に向けた動きが出始めている。市公式noteでチャットGPTを使った記事を公開した神戸市など、先駆的に取り組む自治体や専門家らに話を聞き、今後の公務職場での活用可能性や課題を2回のシリーズで探る。

■神戸市
 「すげー! ほんとにアイデアを出してくれるんですね! まさに人と会話しているようです!」─。「役所 ChatGPT」で検索すると、神戸市広報戦略部が3月9日に公開した「話題のAI『ChatGPT』に神戸市役所も聞いてみた! 神戸の魅力ってなに?」というnoteの記事にヒットした。
 同部では半年前から市の事業や街の魅力を紹介するnoteを発信しており、その記事のネタをチャットGPTに提案してもらい、実際にこれまでnoteで取り上げてきたテーマと比較する企画だ。チャットGPTに「新しいネタを三つ提案して」と打ち込むと、「市内の歴史的建造物の魅力を紹介する記事」「グルメ情報を紹介する記事」「自然と魅力を紹介する記事」の3案を理由とともに提案。歴史的建造物やグルメ情報はこれまで取り扱っておらず、早速アイデアに生かすことにしたという。
 この記事を執筆した同部の金田侑士さんは、HP監理官という肩書でDXを進める外部人材として2021年に民間から同市に入庁した。
 神戸市は「スマート自治体」として、最新テクノロジーを積極的に活用する方針を掲げている。金田さんはチャットGPTが話題に上り出した今年2月、広報戦略部の有志10人ほどで構成するnoteチームで「使ってみよう」と提案。「広報戦略部なので世相はよく見ています。話題性やニュースバリューも大事なので、『(他自治体より)一番早くやろう』と」。こうして他自治体に先駆けて手を付け始めた。
 記事のネタだけでなく、タイトルと冒頭の文章もチャットGPTが作成。金田さんは実際に使ってみて、「回答の速さや何を入力しても答えられるところに衝撃を受けた」という。
 部内ではnoteの執筆に当たり、いろいろな話題をチャットGPTに聞いてみた。その中で分かったのは「人物名はちょっと弱い」ということ。「神戸市長についてどう思いますか」と聞くと、以前の市長の情報などが混在した回答が出たという。他方、2025年までの市の実施計画「神戸ビジョン」の「その先」を尋ねてみると、コンセプトの一例などを提案してくれたといい、金田さんは「政策形成のインプットにもなるかもしれない」と手応えを示す。
 今後は市民サービスへの導入も検討しており、窓口や電話で寄せられる様々な問い合わせへの回答などに使えないかを検討する考えという。
 また、チャットGPTの導入は、役所の仕事の仕方を変える可能性も持つ。金田さんが想定するのが「考える補助」としての活用だ。「人ではなくAIと打ち合わせをすることも可能だし、『これはAIにも見てもらってます』と上司に報告するとか、逆に『これはAIに聞いてみたら?』などという使い方ができると思います」
 これまで仕事は各人の能力や経験など蓄積されたものに依存してきたが、たとえ経験のない新人でも、チャットGPTを使う能力により大きなチャンスが得られる社会になるかもしれない。
 さらに金田さんは、チャットGPTの機能が外部のアプリやソフトから使えるようになったため、今後、リアルタイムでの使い方が増える可能性があると指摘。「会話の文字起こし機能が使えれば、採用面接の場で評価がすぐに出せたり、次はこういう質問をしてみては? といったサポートをしてもらえる可能性があります」。AIと打ち合わせし、AIに判断される─そんな未来もそう遠くないかもしれない。
 ただ、壁になるのが情報の取り扱いだ。イタリアではチャットGPTの膨大なデータの収集・保存が個人情報保護法に違反する可能性があるとしてチャットGPTへのアクセスを一時停止している。金田さんは「国が検討に動き出しているのでその指針にのっとる」としつつも、「ただ、それを待つばかりではなく、自治体の中でも発想があるし、何か使えることはないかと試行錯誤していくことは大事だと思うのでそういう目線でやっていきたい」と話す。

■埼玉県戸田市
 「ちなみに、このページ記載の文書につきましてはチャットGPTが作成したものでございます」─。18日、埼玉県戸田市で市長や幹部職員らが集まって開かれたDX推進本部会議での一幕だ。市は14日、自治体の業務改革の促進を目的に、「チャットGPTに関する調査研究事業」に着手すると発表。この会議で正式に了承された。こうした動きは全国初とみられる。
 だが、なぜ課題をはらむ新技術の導入を他に先駆けて検討するのか。
 「政府はこのAIの有効活用に向けて検討を始めているが、私は市民サービスを直接行う自治体こそ早急にその活用とリスクを検討しなければならないと考えている」と話すのは菅原文仁市長。国の方針を待つのではなく、「市として業務の自動化・効率化が可能な領域を洗い出すとともにリスク・危険性を把握し、安全に使用する方法を検証したい」との考えだ。
 事業では、主に(1)市民窓口や電話応対における自動応答システムの導入(2)調査票の集計や質問回答の自動生成(3)行政文書の自動生成(4)その他業務に受けるチャットGPTの活用─を検討する。
 これらの項目とそれぞれに付随する説明は、チャットGPTが提案したというから驚きだ。冒頭のセリフは会議でこれらを含む事業概要のページを事務局が説明した際のものだ。
 事務局として資料作成に当たったのは市デジタル戦略室の大山水帆室長。総務省の地域情報化アドバイザーなども務めており、すでにチャットGPTのさまざまな活用法を個人的に業務の中で試しているという。今回の資料作成も「例えば30分くらいかかっていたものがものの数秒で完成した」といい、かなりの時短になっているようだ。
 調査研究は、庁内に関係課長から成るチームを設置し、外部アドバイザーの支援も受けながら進める。6月ごろまでチャットGPTを用いた自動化や効率化の可能な領域の洗い出しを進め、その後、約2カ月でその改善策を提案。10月をめどに「自治体業務におけるチャットGPTの活用ガイド」を作成し、便利な使い方や行政文書を作成するときのテンプレートなどを盛り込む予定だ。ガイドブックは他自治体でも応用可能なものになると見込み、HPなどで公開する。
 併せて、5~6月には市職員や市民、企業が参加し、チャットGPTを活用するアイデアやプログラム作成を行うハッカソンも開催する。
 ただ、チャットGPTの技術は役所が検討している間にもどんどん変化していく。菅原市長は「ガイドの公表で終わりではない。まずは目下、我々の仕事にどう活用できるか、リスクは何なのか、倫理の問題はどうなのかという課題を洗い出していく」と話す。
 

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