都政新報
 
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宮坂学・東京都副知事に聞く/公務職場のDXどう進める?/「ガブテック東京」の現在地と狙い/AI時代の公務員像は?


   対話型AI「Chat(チャット)GPT」など、新たなテクノロジーが登場し、行政の仕事の在り方も急速に変わりつつある。都政のデジタル化を「爆速」で進める宮坂学副知事に、東京全体の行政のデジタル化を推進する「(一財)GovTech(ガブテック)東京」の展望や、AI時代に求められる公務員像などを聞いた。

■「ガブテック東京」の現在地と狙い
 ─4月末に「ガブテック東京」の設立時理事が決定しました。
 組織を作るときには「まずバスの行き先より、誰を乗せるか決めろ」という有名な格言がある。トップの人事から固めないと誰を乗せるか決まらないので4人の理事を決定した。これでいよいよ次はミドルマネージャーなど立ち上げメンバーの幹部を決め、それが決まればみんなで詳細を考え、9月に事業を開始する。

 ─ガブテック東京では人材のモチベーションを上げる公務員とは違う評価・給料制度も検討中です。
 公務員の制度では評価は年に1回だが、民間のサービス開発ではもう少し頻度が高く、4回ぐらいのところもあるので、ガブテック東京では年に複数回実施したいと考えている。また、現在の任期付き職員の制度では給料が変動しない。安定的といえば安定的だが、良いサービスを作ったらちゃんと評価されて、ダメだったら「次、頑張ろうぜ」という方が励みになると思うので、開発者にとって働きやすい制度を作りたい。

 ─ガブテック東京では「共同化」がキーワードです。
 デジタルは共同でやったほうが得なことが多い。例えばモニターを買うにしてもみんなで買ったら安いですよね。「自分たちはどうしてもこれが良い」という時は別だが、同じ物でいいときは共同化した方が非常に良い。
 研修も共同化したい。すでに「共同勉強会」も始めている。昨年度は区市町村の職員約2400人とかなりの人数が参加しており、着実に積み重ねてきているが、ガブテック東京ができたらもっと広げたい。

 ─具体的にはどんなことを進めるのでしょうか。
 今、国は自治体の20の基幹業務についてはガバメントクラウドで共通化すると言っているが、地方自治体には「21個目以降の業務」が山ほどあり、それをどうするんだという議論が始まっている。そこで去年、プロトタイプとして先行事業を始めており、例えば文京区では学童の申請をオンライン化し、その人の状況に応じて「入れる・入れない」を判断する自動受付プログラムを作ったが、これは他の区市町村にも展開できる可能性がある。区市町村ごとに62個のシステムを作らずに1個にすれば費用も安くなるし、仮に1個が少し高くなっても品質が良く、それを62区市町村が共同で使った方がトータルではお得になる。

 ─他にはどんなものが想定されますか。
 「区市町村CIOフォーラム」などでヒアリングしてきたが、学校の先生の校務システムは区市町村ごとにバラバラで、先生が区市町村をまたいで転勤してしまうと使い方を再度覚えなければならず、共同化してほしいという要望がある。他にも身近なところだとスポーツ施設や美術館の予約システムもバラバラだし、隣接する自治体の避難所マップが1枚になるといいなど、共同化の可能性がある案件がいくつも挙がった。今までは自治体ごとに作っていてなかなか話し合いもしづらかった。少しずつ共同化の芽が出てきたので、それをぜひ育てていきたい。

 ─多様な人が参加するガブテック東京でも「オープン&フラット」が重要になります。
 ぶつかり合いも含めて多様な人がいる方がイノベーションは起こる。オープンはいろんな人が参加すること。都庁でも僕みたいに民間から転職した人もいれば、政策連携団体の人、出先の事業所の人、男性、女性、若い人、ベテラン、管理職、一般職員……と、意思決定の場にいろんな人がいるのはすごく大事だと思う。一方、フラットは、いくらたくさんの種類の人がいても、例えば「部長が話す前に話したら失礼」といった「上座・下座」みたいな雰囲気があると、あまり意味がない。コミュニケーションのモードをフラットに変えないといけない。
 今、都庁ではせっかくたくさんの種類の人が集まってもみんな黙りこくっていることも多く、それを変えていくのがオープン&フラットな職場ということ。ガブテック東京でも都内の区市町村をはじめとする行政の人もたくさん来てもらいたいので、率先して力を入れてやらないといけない。

 ─実現に向け必要なことは。
 自分もいまだに「民間出身人材」とか「外部人材」とか言われるが、そういう出自に関するレッテルはいらないと思う。大リーグの大谷翔平選手がアメリカに行って「助っ人」とか言われないと思うが、日本だと「助っ人外国人」とか言いますよね。本人は契約の上で入ってきているわけなのですごく排他的な表現だと思っていて、外部人材とか民間デジタル人材とかの表現はすごく嫌。「女性管理職」とかも一緒で、便利だから使ってしまうが、そういう用語がなくならないとオープンでフラットにはなっていかないと思う。それで何かがすぐ変わるというわけではないけれど、「カルチャー」ですね。

 ─ガブテック東京では区市町村に人材を派遣する構想ですが、その際に必要なことは。
 月並みだが、対話の回数を増やすことに尽きると思う。区市町村に御用聞き的に毎回行っていると何百人いても足りない。でも全く行かずにこちらの主張を押し付けてもうまくいかないので、最初はこちらの「全体最適」でやりたい部分と区市町村が個別ニーズでやりたい部分のすり合わせをじっくり話し合ってやっていく。
 チーム作りには会話の回数が大事だと思っていて、自分も(1対1で話す)「1on1」をやっている。1カ月に1回、1時間の会議をやるよりも、1日3分のミーティングを月に20回やったほうが良いというデータもあり、その通りだと思う。最初が大事なので、できるだけ区市町村の邪魔にならない範囲で説明させてもらって、話を聞かせてもらいたい。会話の回数は区市町村との関係づくりだけでなく、オープン&フラットに向けても大事。

 ─どのような体制で区市町村と向き合っていけばよいと考えますか。
 ガブテック東京で採用する人にしろ、現在デジタルサービス局にいる技術者にしても、もともと行政ではない人が多く、一人で行くと知らない世界なので不安になりがちだし、受け入れる側も同じく不安だと思う。不安な人同士が話すのは大変。そこで行政に長けた人と技術に長けた人をスキューバダイビングの「バディ」のようにセットで派遣しようと考えている。行政の人だけで行くと技術のことが分からないし、技術者だけだと今度は行政事務のことが分からないからうまく行かない。「餅は餅屋」っていうのは本当に大事で、分からないことは「バディ」に頼ればいい。チームを組むことでお互いの弱みを打ち消すことができる。都庁としてはそういうスタイルで区市町村に貢献したいと思っている。

 ─区市町村の職員はどのような心構えで受け入れればよいでしょうか。
 学校の時に習ったように、「転校生に優しくするのは在校生」の原則にしてくれるとありがたいです。僕も転校生が多い学校で、小さい頃に見てきたので組織も一緒だと思う。在校生(職員)が「一緒にランチ行こう」とか「何か困ったことはない?」と声をかけてあげたりと、何気ない会話の頻度がすごく大事だと思う。朝来て見たことのない人が座っているとき、無言で通り過ぎられると、来た人からすると「呼ばれてないのかな」と思ってしまう。そういう時はお互いに「照れない」っていうのが大事だと思う。日本人は照れるじゃないですか。なので、ちゃんと「関心がある」ことを表明するのが大事で、区市町村の皆さんは、もし見かけない顔があったら「ちょっとコーヒーでも飲みに行こう」など、ぜひ声をかけてもらえるとうれしい。こちらも積極的に会話をする努力をする。そういうことの積み重ねだと思う。

 ─都庁でもチャットGPT活用の検討が始まっています。宮坂副知事が考えるAI時代の公務員像は。
 企業もそうだが、窓口業務など人にしかできない仕事の価値が上がる気がする。今までは論理的思考力や知識など、「試験で100点を取る人」が評価されてきたが、チャットGPTも試験で100点を取ってしまう。つまり、いわゆる「左脳」の部分はどう考えてもコンピューターに勝てないので、これからは「右脳側」も大切だと思う。例えば、「こう説明したらいい」という原稿がAIから来た時に、それを笑顔で話せるのか、嫌な感じで話すのかで大分違う。共感する能力とかコミュニケーション力とか人にしかできない能力が重要になってくると思う。

 ─「キャラ重視」になるかもしれないと。
 全ての人がAIを使うことで人が今よりも何倍、何十倍も「頭が良く」なってしまう可能性が出てきたので、あとは人間性というかキャラクターというか、相手の気持ちに共感して
理解してあげるとか、相手から相談を受けている時
に「本当はまだ本音を言ってないんじゃないのかな」って共感して更に問いかける能力とか、人間くさいところが企業の営業とか役所の窓口にも求められるようになるのではないかと思う。

 ─都庁での生成AIの導入についてはどう考えますか。
 チャットGPTの他にも文章から動画を作るなど様々な面白い生成AIが出てきているが、まずは1月からやっと可能になった「スマホでの業務」の浸透の方が先だと思う。私用のLINEで仕事のやり取りをすると、セキュリティー的にリスクがあったり、プライベートの電話番号を業務で使うとハラスメントの温床にもなりやすく、職員を守れない。都が管理する職員名簿に記載された情報で職員同士がスマホでつながれるようになり、クラウドも導入し、チャットでやり取りしたり、業務メールなどもスマホで見られるようになった。しかし、紙やメール添付などのカルチャーは残っており、まだまだ都庁全体で使い倒しているとは言えない。物事は順番だと思うので、いきなり生成AIを使いこなすのは早い。

 ─「ステップ・バイ・ステップ」ということですね。
 ビデオ会議なんかもコロナの前まで慣れていなかったけれどみんな使えるようになったので、慣れだと思う。
 でも、都庁の場合はチャットGPTがこのタイミングで出てきて良かった。スマートフォンとクラウドはこの10年間の巨大なイノベーションだが、その技術の進歩を都庁は業務ネットワークのインターネット分離の問題などでこれまで取り入れることができなかった。チャットGPTもクラウドで動いているので、そもそも都庁にクラウドが導入されていなかったら活用の検討すらできていなかったと思う。区市町村の話を聞いていると、まだクラウドが使えないところも多いようだ。クラウドやスマホが使える環境にしてあげると、新しいイノベーションを自分の組織に取り入れるチャンスができる。このネットワークの構築は地味だけどとても大事。

 ─ありがとうございました。
 

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